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『文字をつくる9人の書体デザイナー』から学ぶ、デザインへの3つの姿勢。

数々の書体がどんな人によって、どのように作られているのかとても興味があったので読んでみました。

タイトルの通り永く愛される書体を創り上げてきた人の書体デザイナーの方々のインタビューが豊富な図版と美しい写真でまとめられている本です。

文章量があまり多くないのですぐに読み終えることができますが、長年書体デザインに携わってきた方々だけに、デザイナーの方々のそれぞれが文字に対する哲学を持っていて、含蓄のある言葉がたくさんあります。

そのなかで、特に印象に残った部分を3つと、そこから何が学べるかを考えてみたいと思います。


●物事の原理を知ること
鳥海修氏が写研時代の『一番文字が上手な人』に文字がうまくなる秘訣を探ろうとしたときのこと。
 「橋本さんに文字のことを質問すると、『筆で書くとこう。だから明朝体のときもこうなるんだよ』と、『筆で書くと』が枕詞のように話に出てきた。だから書道をやろうと思ったんですね。」
今はMacがあれば寸分のズレもない円や曲線が簡単に描け、フォントも容易につくることが出来ます。しかし、文字というものは手で描かれたものが起源であり、すぐにコンピューター上でつくるのではなく、書道などで実際に自分の手を動かして文字を書き、筆の動きを体で感じる事で、なぜこの形になるのかという必然性を知ることで、経験に裏打ちされたデザインができるのではないかと思います。


●先入観や知識にとらわれない
西塚凉子氏が卒業制作で書体デザインを考えたときの事。
 「『良寛』は通常の日本語と同じ様に、四角い枠の中に収められてつくられている。じゃあ私は筆書系の書体でもっと動きのあるものをつくってみようと思ったんです。そのころはまだフォントの知識がなかったので『四角に入れなくてもいいじゃん』みたいに勝手に思ってたんですね(笑)」
通常グラフィックデザインを仕事にしているならば文字が四角の仮想ボディに収まっている事は当然知っているべき事なのですが、西塚氏はその知識がなかったからこそ、その四角い枠を飛び越えた発想が出来たのだと思います。知識は時として柔軟な発想を妨げるということであり、既存の枠を取り払い、先入観にとらわれないことが大切なのではないかと思います。


●感覚を言語化する
大平善道氏が写植オペレーターとして働いていた時、いつも同じ書体を指定するお客さんにその理由を質問したときのこと。
「お客さんに質問してみたら、その書体の魅力を説明してくれました。聞いてみて初めて、なるほど、とわかったわけです。そうすると、次からその書体にたいする意識の度合いが変わってくる。ああ、この書体は素晴らしいな、こんなきれいな書体が日本にあるんだなと。」
例えば、自分のデザインを説明するときに「なんとなく良いから」だけで済ませるのではなく、感覚を言語化することでどうしてこのデザインになったのかという事をきちんと説明し、意識を共有することがお互いの理解を深めて行く上で大切なのではないかと思います。原研哉氏も「自分の考えているポイントを適切に能力こそコミュニケーションの基本であり、デザイナーは本来、『説明のプロ』にならざるを得ない」と述べており、感覚的な部分だけでなく論理的な考え方も重要だということが分かります。

文字好きにとって、たくさんのためになる言葉がちりばめられていて、普段は雄弁に語りかけることなく、自然に存在している書体の声を一冊に凝縮して届けてくれた著者に感謝したいと思います。

文字だけでなく、デザインへの姿勢が多く学べ、コミュニケーションを生み出す仕事をしているすべての人にオススメの本です。

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