Skip to main content

作法はデザインに従う

形態は機能に従う。という言葉がある。
建築自体の美しさは、機能的な側面が満足いくものになっていれば、あとから自然とついていくるという事を端的に表した言葉である。
同じように、人の作法の美しさはデザインによって決められていると感じる場面に出くわした。

出社前の朝、カフェで落ち着いてアイデアを考えていたらノートで作業をする人に囲まれた。一方はPC(国産らしきWindows)、もう一方はMacBookを使っている。どちらもこれから仕事に向けて準備しているのか、画面とにらめっこしながらキーボードを一心不乱に叩いている。

ただ、PCの方は店内のBGMを乱すかのようにガチャガチャ、タターンッ! とミサワばりに音を響きわたわらせはじめた。朝の落ち着いた静かなカフェが一瞬にして慌ただしいオフィスに変わったかのようだ。

PCの方が音が大きく、作法が雑なのはなぜか。単にキーを打つ時にでる音の違いだが、ここに本質的なデザインの違いがあるのではないだろうか。 モノそのものだけでなく、それが使われる周囲の環境まで考えた時に、PCはどう使われるかまでデザインされていないのだろう。
使う人にとってキーボードからカチャカチャと出る音は中毒性があって心地良いかもしれないが、周囲にとってはノイズとなり、使う人の作法もデザインされたものに従ってしまうのである。

一方、MacBookのキーボード音は比較的静かになるようにデザインされている。このため作法は自然と静かにキーボードを打つように規定される。使う人の性格による部分もあるだろうが、それでも比較して静かに見えるようになるだろう。
この違いが、心地よさが重視されるカフェなどの公共空間において、周囲からみた時の印象の違いを生み出しているのではないだろうか。

同様の視点で考えた時に、Mediumも他のブログサービスと比較してみた時にデザインが作法をうまく規定している好例だ。
フォントや行間は選べないし、画像や動画を貼り付けるフォーマットは数種類のみ。できないことだらけである。しかし、その制約があることで、余計なことを考えずに書くことに集中することができる。

このブログを書き始めた時も、カジュアルに話しかけるようなトーンで書いていたが、フォントが明朝で設定されていることで、もう少し日記的な使い方の方がしっくりくると感じ、文体も自然と落ち着いたものになった。
まさにMediumのコピーである「Write your story」という言葉通りになるように、過度な装飾がされた記事は排除され、個の考えやストーリーを重視したものが集まるようにデザインされている。

公共空間のデザインでも、あえて壊れやすいものにすることで、作法を丁寧に美しくするということがある。
数多くの有名な鉄道デザインを手がけている水戸岡さんは、「ななつ星」車内の洗面鉢では、JRの反対意見を押し切ってあえて高級で壊れやすいものにしたそうだ。

有田焼の陶芸家で人間国宝だった十四代酒井田柿右衛門さんの遺作が採用されている。https://www.flickr.com/photos/kimuchi583/14046729716

最高のものを丁寧に扱うところに作法が生まれて、それが大変美しく見えるはずです。それを使っている人も美しく見えるし、その鉢も質の高い作品として映える、という関係です。
―水戸岡 鋭治『鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い』

割れ窓理論のように、一つでもルールが守られていない部分があると、そこから一気にマナーは崩れ落ちてしまう。公共空間の美しさは、使う人との緊張関係で成り立っている。

デザインする対象だけでなく、その先にいる人たちにどう使ってもらいたいか。
作法や空間の美しさは、使う人の意識以上に、デザインする人自身の意識次第で変わってくるということだ。

Popular posts from this blog

細かすぎて伝わりづらい!
iOS 5のデザイン変更点まとめ。

iOS 5のリリースやiCloudの開始、iPhone 4Sの発売と、ここ最近のAppleのプロダクトが一通り出そろった感じですね。 3GSを使っていて常々もっさりしていたので、早速iPhone 4Sに乗り換えたところ、画面の中をスケートをしているかのようにスイスイ動いてくれてとても快適です。 2年前に3GSを使っていたときは、なんて速いんだろうと思っていたわけですが…慣れとは恐ろしいものです。 さて本題ですが、ここ数日使っていた中で気付いた、細かすぎるデザイン変更点があったので 前回のLion と同じようにまとめてみました。  細かすぎるデザイン変更点第2弾、今回も目を凝らしてどうぞ。  1.アイコンバッジ  iOS 4のアイコンバッジのシャドウは濃いめのブラックで強めのシャドウになっていましたが、iOS 5ではグレーっぽく明るくなっています。 全体的に比較してみると、iOS 4のシャドウは浮いている感じがするので、明るくなったことで画面全体のトーンにまとまりが出たように感じます。 2.ボックスデザイン 設定画面などのボックスデザインが、iOS 4ではフラットなラインに対して、iOS 5ではシャドウとハイライトが追加されて立体的なデザインになっています。  iOS全体で同様の立体的なデザインが適用されているので、デザインの一貫性がより高まった感じがしますね。  3.メッセージのハイライト これは賛否両論ありそうですが、iOS 4ではメッセージの文字がプレーンなテキストだったのに対して、iOS 5ではハイライトが追加されてこれまた立体的なデザインになっています。 他にも吹き出しの背景色やシャドウが明るくなったことで、背景と文字のコントラストが高くなり、個人的には文字の可読性が高まって良くなったと思います。  5.回転ロックボタンの厚み iOS 4では回転ロックボタンのシャドウ距離が3pxだったのに対して、iOS 5ではシャドウ距離が4pxとなって、より立体的に見えるようになっています。 反対にミュージックアイコンのシャドウ距離は3pxで変わらずのままですので、1pxの違いをデザインすることで、回転ロックという 機能アイコン と、ミュージックを起動するという 起動アイコン の違いを表しているのではないかと

icloudのアイコンに隠れた美しさの法則。

Thank you for coming to my blog! this article English version is here. 先日のWWDCで発表されたicloud。アップルのクラウド本格参入ということで色々とサービスが話題になっていますが、相変わらずアイコンのデザインも綺麗に仕上がっていますね。 では、なぜ美しく見えるのか、少し視点を変えてアイコンのデザインそのものに注目して、その美しさの理由に迫ってみたいと思います。 まずは、なんとなく眺めてみましょう。 雲の輪郭が不規則な曲線を描きつつも、とてもバランスのとれた形になっていますね。ワラのなかから一本の針を見つけるぐらい、とまではいかないと思いますが、シンプルでバランスのとれた形にしながらも雲に見えるような形に定着させるのは、簡単そうに見えて意外と難しく、磨き抜かれたデザインだということが分かりますね。 なんとなく眺めているだけでは美しさの理由に迫れないので、もう少し目を凝らして見てみましょう。 勘の良い方は既にお気づきだったかと思いますが、形の中に4つの円が隠れていることに気がつきます。一見、何となく描いたように見えるカーブでも正円で構成することでバランスのとれた形になっていることが分かります。 つまり、 「アイコンの美しさは幾何学で構成することにあり」 ということが分かるわけですが、単純にランダムな円を配置していくだけでバランスのとれたデザインに仕上げることができるか、と考えるとあらゆる可能性が頭をもたげ、少し疑問に思えてきてしまいます。 そこで、さらなる理由を追い求めて、今度は円の直径を測ってみました。 すると… なんとまあ、それぞれ左右の円の比率が1:1.6と、見事に黄金比に近い比率になっているではありませんか。 さらにさらに、雲の形の比率も調べてみると…。 まさに、「One more thing」。 幾何学だけでなく、黄金比のような原理的な法則を駆使しながら、美しさを無意識に訴えかけるスキのないデザインに仕上がっていますね。 まとめてみると… ・曲線を幾何学で構成(補正)することでバランスのとれた形になる ・細部のランダムな大きさの中にも一定の法則を適用することで、全体的にバランスのとれたデザインになる シンプルなのに奥深い。

細かすぎて伝わりづらい! iOS 6のデザイン変更点まとめ。

iPhone5やiOS 6のリリースなど、アップルユーザーにとって目が離せない日が続いていますね。 iOS 6に関しては地図アプリが散々なもので正直ガッカリですが、UIは全体的に使いやすくなって、じっくり観察してみると細かすぎる変更点も健在でした。 大きな変更点に隠れた細かすぎる変更点たち、その涙ぐましささえ感じる進化をどうぞ! ■設定アイコン iOS 5では歯車の形が尖っていましたが、iOS 6では角が丸くなってソフトなイメージになっています。 OSXの設定アイコンと同じになったので Back to the mac の方針がアイコンでも徹底されているようですね。 ■時計アイコン 設定アイコンと同じ様に、iOS 5では時計針のシャープな印象でしたが、6では太さが一定になり、角張った印象になっています。 Apple製品がブラウン製品とよく似ている という事から考えると、 ブラウン社のアラームクロック に、よりデザインが似てきていますね。 ■ヘッダー iOS 5では光沢感のある質感になっていましたが、iOS 6ではそれがなくなってマットな質感になり、さらにシャドウが追加されています。 iPhone 5の背面もマット加工がされていることから、ハードとソフト両方の質感を統一してきているということが分かります。 ■アクションシートのボタン ヘッダーと同じ様に、光沢のあったものが、iOS6では光沢感がなくなりマットな質感になっています。 個人的には光沢のある感じも好きでしたが、新しいボタンもグラデーションの感じが綺麗で良い感じですね。 ■カメラアイコン やや角張った印象のアイコンでしたが、iOS 6 ではより丸っこくなってかわいらしい感じのアイコンになっいます。より親しみやすさを重視して来ているということでしょうか。 ■キーボードの角 iOS 5ではキーボード下部に角丸の処理が加えられていましたが、iOS6ではそれが無くなって直角になっています。 ジョブズ氏の伝記で、アップル製品で角丸が多いのはジョブズ氏が角丸にこだわっていたから、というエピソードがありましたが、もうその必要性が無くなった、ということでしょうか。 ■メッセージアプリ iOS 4からiOS 5に変わった際に追加