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Showing posts from August, 2010

「音楽」と「デザイン」が一体化した空間。ロンドングラフィックデザイン展『UK? OK!!』

渋谷のパルコで開催されている、ロンドングラフィックデザイン展『UK? OK!!』に行ってきました。 UKのデザインシーンを支える各デザイナーの「Sound」をテーマにしたグラフィックとインタビュー映像がボックスごとに展示されています。 いろんな音楽のジャンルの発祥地なだけに「Sound」の多彩な表現があり、「UKのグラフィックデザインシーンは音楽と密接な関わりがある」ということを空間を通して感じ取る事が出来ました。 この展示で面白かったところは、作品がボックスごとに断絶されていることで、それを下から能動的に「くぐる」ことによってデザイナーの持つ世界と面と向かって向き合う事ができるところです。 その中で特に興味深かったのが、Tom hingston studioとTappin Goftonのインタビュー映像におけるコメントの共通点です。 「UKのシーンは小さなインディペンデントなスタジオが創っている」Tom hingston studio 「アイデアと情熱さえ持っていれば世界的なプロジェクトは成功させられる」Tappin Gofton とても野心的なコメントで、シーンを創り上げることに規模は関係なく、どういった意識をもってデザインに関わっていくかを考える事が重要なのではないかと思いました。 ラスト3日間中だったので、TomatoのSimon taylorが制作されたスペシャルサウンドとのコラボレーションも行われていて「音楽」と「デザイン」の関係性を改めて考え直す良いきっかけとなりました。

『文字をつくる9人の書体デザイナー』から学ぶ、デザインへの3つの姿勢。

数々の書体がどんな人によって、どのように作られているのかとても興味があったので読んでみました。 タイトルの通り永く愛される書体を創り上げてきた人の書体デザイナーの方々のインタビューが豊富な図版と美しい写真でまとめられている本です。 文章量があまり多くないのですぐに読み終えることができますが、長年書体デザインに携わってきた方々だけに、デザイナーの方々のそれぞれが文字に対する哲学を持っていて、含蓄のある言葉がたくさんあります。 そのなかで、特に印象に残った部分を3つと、そこから何が学べるかを考えてみたいと思います。 ●物事の原理を知ること 鳥海修氏が写研時代の『一番文字が上手な人』に文字がうまくなる秘訣を探ろうとしたときのこと。  「橋本さんに文字のことを質問すると、『筆で書くとこう。だから明朝体のときもこうなるんだよ』と、『筆で書くと』が枕詞のように話に出てきた。だから書道をやろうと思ったんですね。」 今はMacがあれば寸分のズレもない円や曲線が簡単に描け、フォントも容易につくることが出来ます。しかし、文字というものは手で描かれたものが起源であり、すぐにコンピューター上でつくるのではなく、書道などで実際に自分の手を動かして文字を書き、筆の動きを体で感じる事で、なぜこの形になるのかという必然性を知ることで、経験に裏打ちされたデザインができるのではないかと思います。 ●先入観や知識にとらわれない 西塚凉子氏が卒業制作で書体デザインを考えたときの事。  「『良寛』は通常の日本語と同じ様に、四角い枠の中に収められてつくられている。じゃあ私は筆書系の書体でもっと動きのあるものをつくってみようと思ったんです。そのころはまだフォントの知識がなかったので『四角に入れなくてもいいじゃん』みたいに勝手に思ってたんですね(笑)」 通常グラフィックデザインを仕事にしているならば文字が四角の仮想ボディに収まっている事は当然知っているべき事なのですが、西塚氏はその知識がなかったからこそ、その四角い枠を飛び越えた発想が出来たのだと思います。知識は時として柔軟な発想を妨げるということであり、既存の枠を取り払い、先入観にとらわれないことが大切なのではないかと思います。 ●感覚を言語化する 大平善道氏が写植オペレーターとして働いていた時、いつも同じ書体を指定するお

持続可能な未来のために、デザインができること。

『消費社会のリ・デザイン』を読み終えました。 これまで消費主義的に欲求を満たしてきたライフスタイルでは環境への負荷が高く、持続可能性が低いということ。持続可能な未来のためには「物質的・経済的な豊かさ」から精神面での欲求を満たす「文化的な豊かさ」への価値転回が必要だということが様々な観点から述べられています。 その中で興味深かったのは「文化的な豊かさ」の必要性について述べられていた以下の点です。 絶対的にも相対的にも精神的な豊かさに物質的な豊かさは関係ない『幸福の心理学/マイケル・アージャイル』 「経済成長」と「幸福」は必ずしも相関関係に無いことから、精神的な豊かさを求めるべきである『GNH/国民総幸福量』 自我欲求(差別化の欲求意識)から、さらに上の段階である自己実現欲求(精神面での充足)へシフトし、多くの人が社会貢献の考えを持つことで豊かな社会となる『マズローの欲求5段階説』 このことから、「文化的な豊かさ」は「物質的・経済的な豊かさ」の延長線上には無いということが示されており、多かれ少なかれ大量消費社会を助長してきたデザインの役割も変わらなければならないということです。 では、その時デザインは社会のために何をすべきかについて、以下の部分が参考になります。 デザインは自己完結することなく、生産・購買・使用・廃棄・再生というトータルなシステム、及びモノをとりまく社会、さらにそれを越える地球的環境との関係性においてソーシャルにデザインされるべきである つまり、これからのデザインが担うべきことは、問題を解決するにあたって、見た目の美しさなどの表層的なことだけでなく、問題の本質を捉えトータルにデザインしていく必要があり、IDEOのCEOであるティム・ブラウン氏の言う、直感と分析能力のバランスがとれた「デザイン思考」がより重要になってくるのではないかと思いました。 持続可能な未来のために、デザインがしなければいけないこと。 それは「人間を中心に地球が回っているのではない。地球を中心に人間が回っているのだ。」という意識の転回がおこせるような仕組みを根本からデザインしていく姿勢が大事だなと感じました。 社会におけるデザインの役割を考えていく上で多くの示唆を与えてくれる本です。

Appleのフォント「Myriad Pro」と「Myriad Pro Web」から読み取るWeb用フォントの秘密。

先日AdobeのCS5をインストールしたら、Macに始めから入っているフォントの「Myriad Pro」の他に「Myriad Pro Web」がインストールされていて「Web? 何か違うの?」と気になりだしたら止まらなかったので調べてみました。 Appleのコーポレートフォントである「Myriad」を解剖していくことでデザインの美しさの秘密に迫ると同時に、Webの冠をつけたフォントはどの様に改良されているのかに迫ってみたいと思います。 まず、始めに「Myriad」とはどんな書体なのでしょうか。Wikipediaで調べてみると… ミリアド (Myriad) は、サンセリフの欧文書体で、いくつかあるフルティガー体 (Frutiger) 模倣フォントの一つである。アップルやアドビシステムズがコーポレートフォントに採用している Apple、Adobeと、世界のITを牽引する企業が採用しているという事から、先進的なイメージを与えてくれるフォントだということが分かります。 では「Myriad」と「Myriad Web」は、具体的にどこが違うのか、はじめにアウトラインにしたものを重ねてみました。 可読性を高めるために、カウンターを広げたためか、全体的に横長になっている印象を受けます。 その中でも、特に違いが見られたのが大文字の「N」です。 左の「Myriad」のNは直線的に構成されているのに対して、右の「Myriad Web」は中心部が少し膨張気味になっています。 では、どのくらい違うのか、試しに直線を入れて見ると…。 こうして比較してみると、右の「Myriad Web」の方は斜線部に肉付けがされてることが分かります。 何故でしょうか、その理由に迫るために、スクリーン上で実際に多く表示されるであろうサイズへと徐々に縮小してみたいと思います。 視力検査ではありませんよー。 相対的に見てみると、左の「Myriad」は、だんだんと小さくなるにつれて中心部が少し頼りなさそうな感じになり、1番上のものと比較してみると違った印象が感じられます。 反面、右の「Myriad Web」の方は中心部に肉付けしているために、安定した感じがしますが、大きくなるに従って肉付けしている部分に違和感が感じられます。 あちらを立てればこちらが立

インセプション。

「インセプション」を新宿バルト9で観てきました。 評判通り非常に面白かったので簡単なあらすじと感想を記しておくことにします。 「インセプション」とは人の夢の中に入り込んでアイディアを植えつけること、そうすることで対称の意識や人格を変えてしまうことです。 他人の夢の入り込んで情報を盗んでいる主人公のコブ(レオナルド・ディカプリオ)に、大企業のトップであるサイトー(渡辺謙)がライバル会社を解体させるため、コブとその仲間とともに、ライバル会社の命運を握った息子の潜在意識へと潜入していくというストーリー。 この映画でキーとなるのが現実と夢との時間のシステムです。現実世界での5分は夢の世界では1時間となり、夢の階層をおりるごとに時間が12倍に引き延ばされていく、ドラゴンボールで言えば「精神と時の部屋」、一般的に言えば「浦島太郎」のような感じです。このシステムが巧みに利用されていることで映画の緊張感が一層引き立てられています。 はじめの方は「上の階層」「トーテム」などいくつものキーワードが散りばめられていてよくわからない感じなのですが、ストーリーを追うごとに「なるほど」と思わせる形で明かされていくので観客を全く飽きさせないしくみになっています。 なかでも、一番印象的だったのが、夢の中では夢を作り上げている自身が思った通りに世界を設計できるという設定で、コブがアリアドネ(エレン・ペイジ)に実際に夢の設計について説明しているシーンで不可能世界を可能にし、自由に動き回る様はアーティスティックな感じでマトリックス以来の新鮮な世界観でした。 ダークナイトで評判の高かったクリストファーノーラン監督の最新作なだけに話題性が高く、期待の高まる映画ですが、面白いの一言で片付けてしまうのはもったいないくらいに観れば観るほど様々な視点や発見がありそうな程イマジネーションに富んだ映画で、久しぶりに何度も観たいと感じさせてくれる映画でした。

アップルvs.グーグル

デジタル社会において非常に大きな力をもった2つの企業について書かれた本。 「アップルとグーグル」この2つの企業についての言説はネット上でもよく散見されますが、まとまった形で書かれたものはあまり無いので本書を読みました。 2社の動きを起点に、iphoneやipadの登場で社会に何が起こっているか、そこから日本の企業は何を学ぶべきかを解説されてあります。 全体像の把握という感じで、あまり深く解説はされていないので、普段からIT系の情報をくまなくチェックしている方が読まれると少々物足りない感じがするかもしれません。 アップルについて非常に詳しい小川浩氏と林信行氏が、書かれているのでどころどころのジョブズの名言の引用が非常に印象的でした。 なかでも特に印象的だったのが日本の企業が長期戦略に失敗する理由について解説されている以下の部分です。 「何か問題を解決しようと取り組むと、最初は非常に複雑な解決方法が頭に浮かんでくる。多くの人々はそこで考えるのをやめてしまう。でも、そこでやめず、問題をさらに突き詰め、タマネギの皮を何層かむくように頑張っていると、しばしば非常にエレガントなデザインにたどりつくことができる。多くの人々は、そこにたどり着くまでの時間もエネルギーもかけていない」 アップルなのにオニオンかい、と、ツッコミを入れたくなる感じがありますが、要は問題解決のためにはとことん考え、その上で無駄を削ぎおとす必要があるということでしょう。 アップルとグーグルから何を学び、活かして次へとつなげていくか、多くのヒントがつまった本でした。